悲鳴は馬車の方から聞こえた。

ハッとし、瞬時に馬車へ目を向ける。


いくつかの人影が馬車後方から出て行くのが見えた。

動きはかなり素早い。

ダレンが足を引き摺りながら、男たちを阻もうとしている。


しまった。

馬車にはミシェルを一人にしてしまっていた。

ジルはその瞬間、自分の失策を悟った。


ミシェルが…。

そう思った瞬間、ビュンと耳元で風を切り裂く音がし、直後に左頭部に激痛が走った。

背後からの攻撃に、ジルは横に飛ばされ、地面に突っ伏した。

あまりの痛みにくらくらしながらも、男が横を擦り抜けて馬車後方へと合流するのが分かった。


「いや〜〜、やめて!
助けて〜〜。ジル〜! ジル〜〜!!」

ミシェルが叫び、辺りに悲鳴が木霊する。

ジルは歯を食いしばりながら立ち上がると、馬車へと駆けた。

馬車はカラッポだ。


その時、何者かがジルの真上を跳躍していった。

視界の端に、風に靡く衣服を捉える。

そこかっ!

眼で追うには相手の動きが素早すぎる。

確実に捉えることができない。

だが、ヤツらの一人がミシェルを小脇に抱え、木と木の間を跳躍していくのが分かる。

他の連中も一斉に退散していく。

まるで、目的を果たしたかのように。