その隙をジルは見逃さない。

反転しながら片手を地について、脚を高く蹴り上げる。

相手の顎に見事にヒットした。

その拍子で顔を覆っていたバンダナがはためき外れ、鼻と口が露わになる。

男はもんどり打って倒れた。

脚にクリーンヒットを示す痺れを感じる。

ジルが振り向いて男を見下ろすと、彼は半身を起こしながら頭を押さえていた。

軽く脳震盪を起こしているかもしれない。

頭を振り、何度も目を瞬かせている。

が、状況は理解できているらしく、ジルには対する警戒は解いていない。

黒く鋭い眼つきと、通った鼻筋。

少し大きめの口の端からは、血が滲んでいた。

男は覆面が取れてしまったことには何の気もかけていないようだ。

部が悪くても、いつでも反撃を試みるだろう。


二人は一定の距離を保って睨み合った。


二人の沈黙はどのくらい続いたのか…。

長かったのか短かったのか分からないが、それを破る声が突然森の中に響き渡った。

「いや〜〜〜!!」