「ジャン、頼んだぞ」

ロイが声をかけると、ジャンは黙って頷いた。

そしてチラリとジルを一瞥する。

左太腿の傷が疼き、ジルは思わず身を構えてしまっていた。

だがジャンはそんなジルを気にした様子もなく、二人を急かすように出口へと促した。

ローグがジルの背中をポンと叩き、後に続く。

「ロイ、それじゃ。必ずまた会いに来るから」

ジルはロイを振り返って言う。

するとロイは、少し笑みを浮かべながらジルに顔を近づけてそっと耳打ちした。

「あぁ、あんたも達者でな。
あんまりローグに世話かけて、嫌われんなよ」

え…?
今、なんて……?

思わず赤面してくる。
パッとロイから顔を離して彼を見た。

よほど驚いた顔をしたのだろう。

ロイはそんなジルを見てニヤリと確信したような笑みを浮かべ、もう一度ジルに言葉を囁いた。


人差し指と中指の二本を額に翳し、踵を返して家屋に向かうロイ。

去っていく彼の背中を眺め、ジルは自分の心臓の音に動揺していた。

ロイ…、あなた、まさか…。
何か、気づいてる……?

しかし、ジルを更に動揺させたのは、最後に囁かれた言葉だった。

彼の言葉が耳に残る。

『ローグがいなきゃ、俺はあんたに惚れていたかもしれねぇよ…』