その時、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。

ハッとして顔を上げる。

「はい」と返事をすると、木製の立て付けの悪そうな扉が一呼吸後に開いた。


そこには一人の女性が佇んでいた。

栗色のストレート髪を後ろで束ね、手には幾つかの器が載った盆を持ち、ゆっくりと部屋に入ってくる。

見覚えがあった。

確かあの時、男の子を追って飛び出してきた女性だ。

とても盗賊の仲間だとは思えない女性…。


「あの、お食事を…」

彼女は近くにあったチェストの上に盆を置くとぺこりと頭を下げた。

「あの、具合はどうですか?
一応、痛み止めと化膿止めのお薬も持ってきましたけど、街へ戻られるなら、お医者さんかヒールの魔法治療を受けられた方がいいかと思います」

彼女はそう早口で言うと、もう一度頭を下げ、足早に部屋を出ようとした。

「あ、待って」

ジルは思わず呼び止めていた。

その声に彼女は歩を止め振り返る。

恥ずかしそうに、そして少し怯えたように上目遣いでジルを見た。

あまり長居はできないのだろうか、しきりに扉の方を気にしているように見える。

「あ、ありがとう」

お礼を言うと彼女はコクンと頷いた。