Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~

そこからは時間がスローモーションのように感じた。

背景がゆっくりと後方に流れていく。

ジャンと男が競り合っている。

女がロイを庇おうと手を伸ばしている。

ロイが何かを叫ぶように大きく口を開く。

全てが遅く感じた。

自分の足がきちんと動いているのさえ分からない。

不思議と音は耳に入ってこなかった。

競り合う音も、ロイが叫ぶ声も、そして自分の足音も。

無音だった。

もう少し、あと少し。

その時…。

『やめてぇぇーーーー!!』

耳で聞いたというより、脳に直接響いたという感じで声が聞こえた。

と同時に自分が駆けていく前方に風が吹き、その風が一人の少女の幻影を浮かび上がらせた。

少女はその特徴的な金髪をはためかせ、両手を大きく広げてロイを庇うように現れた。

目に涙を浮かべた少女は、必死で自分に訴えかけている。