Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~

歯を食いしばりながら押されまいと踏ん張る。

すると、もう一本ナイフを取り出され、顔に向かって払われるのが見えた。

寸でのところで首を竦める。

自分の髪がはらはらと舞い落ちる様が映った。

ジルは力を抜いて彼の懐に下から潜り込むと、そのニックの攻撃の勢いと回転を利用し、投げ飛ばした。

投げる瞬間のインパクトに合わせ、蹴りを入れるのも忘れてはいない。


確かな手応えを感じたジルは、まだ石畳に叩きつけたニックの体勢が整う前に跳躍した。

一気に攻め込んで戦意を喪失させる。
そうしなければ会話も何もあったもんじゃない。

しかし、ジルの攻撃はニックには届かなかった。

ジルの左太股に身を切り裂くような鋭く激しい痛みが襲い、ジルはその場にドッと倒れた。

脚に力が入らない。

「あああああぁぁぁーーぁぁー」

声にならない悲鳴を発し、その痛みに耐えようとする。

そのまま卒倒してしまいそうなくらい激しい痛みの中で、ジルは自分の太股に深々と刺さっているナイフを見た。

ジャンが投射したナイフだった。

ジャンはナイフを投げたときの姿勢で静止し、倒れたジルを見据えていた。

苦しそうな、悲しそうな、なんとも言えない表情で。