Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~



旅立ちの朝、夜明けがまだ始まる前にジルは目を覚ました。

窓から射し込む朧げな明かりが、部屋の中をひっそりと照らす。


ジルはベッドに横たわったまま伸びをした。
背中の筋肉がほぐれる感じが気持ちいい。

それからゆっくりと身体を起こし、着替えを済ませる。

村で過ごしていたラフな格好ではなく、長旅仕様の丈夫な布でできた武闘着に。

淡いクリーム色の動き易さを重視したズボンスタイルに、脛の辺りまである茶色のブーツ。

上半身はその上から左半身を護る形の白い革アーマーを装着する。

腰紐とアーマーのベルトを締めて、背中の腰部分に愛用の武器のダガーを装備する。

昨日、準備した荷物を手に、ジルは何日か一人で過ごした部屋を後にした。


この時間、宿屋の主人のスコットと妻のスピルはまだ夢の中だろう。

起こさないように気をつけて、軋む音を立てる階段をゆっくりと降りた。

だが、その先にある玄関ロビーに佇む一人の影にジルは気がついた。

目を凝らして見てみると、それは寝ているとばかり思っていたスコットだった。