Red Hill ~黄昏の盗賊と冒険者~

だが、痛みはジルを襲わなかった。

ピュッと空気を切り裂く高い音がしたかと思うと、獣は半身をのけぞらせた。

奴の右目に小型のナイフが突き刺さっている。

痛みにのた打ち回り、暴れ狂う。


ロイが投射したナイフだった。

ロイは後方から援護することを決めていたのだろうか、懐からまた何本か新しいナイフを取り出している。


ジルは助けてもらったことを内心感謝しながら立ち上がり、もう一度モンスターに向かう。

ダガーは倒れたときに落としてしまっていた。

だが、とどめを刺すには今しかない。


暴れまわる獣の動きを巧みに躱し、隙をついて獣の尾を両手で握る。

そのまま力任せに引っ張り、ハンマー投げの要領でモンスターを投げ飛ばした。

すぐ近くにあった太い木の幹に叩きつけると、大きな音を鳴らして木は揺れた。

モンスターはもんどり打って倒れた。


ローグが倒れたモンスターの喉元にロングソードを突き立てたのを見て、ジルはようやく安堵し、その場にへたり込んだ。

呼吸を整えるように、肩で大きく息をする。


そのジルの目の前に手が差し出された。

見上げるとロイだった。

ジルはその手を握り、身体を起こすと言った。

「助けてくれて、ありがとう」

ロイは少し恥ずかしそうに笑うと答えた。

「いや。強いな、あんたら」