サイネリアは話します。

「私、やっぱり立ち直れていないのよ。クンシランが亡くなっただなんて信じられないの。だって、葬儀にすら出ていないのよ?信じられなくて当然でしょう」

マルメロは、母親の事を忘れるためにサイネリアに会いにきたのです。
しかし、サイネリアは母親の事を思い出させる内容の話しをしてくるのです。
マルメロは、平静を装い答えます。

「事実は事実として受け止めるのよ。そうじゃないと、先には進めないわよ」

マルメロは、自分の言っている事が矛盾していて嫌な気持ちになります。
サイネリアは、そんなマルメロには気付かずに話し続けます。

「わかってるわ。でもね、一目で良いから会いたかったの。亡くなっているならいるで一目で良いから確認したいのよ」

「何度も言ってるけど、王にお願いしなさいよ。サイネリアは諦めが早すぎるわ。私なら、王が許すまで止めない。絶対に自分の意見を貫くわ」

「私だって、必死に言ったわよ。でも、王が私に言うの。お前が必要だ。逃げるつもりか、てね。そんな事言われたら恐くて何も言えなくなったのよ」

マルメロは苛立ちます。
サイネリアの言葉が自慢のように感じたからです。

「サイネリアは、えらく王に気に入られているわね。一体、何をしているのかしら?」

マルメロは反撃しました。
しかし、サイネリアは無視をしてマルメロに訴えます。

「本当に辛いの。クンシランに会いたい。マルメロ、助けて」

マルメロは呆れます。
息子が亡くなってからのサイネリアは人が変わったかのように甘えたになっていたからです。
マルメロの顔を見ては、甘えるか訴えるか。
サイネリアは子供に戻ったかのような態度なのです。

マルメロは少し叱ります。

「しっかりしなさいよ。子供じゃないんだから」

「わかってるわよ。でも、辛くて仕方ないの。マルメロは私の親友よ。甘えたくなるのも分かって」

「私に甘えるくらいなら、王に甘えなさいよ。そしたら、お許しが出るかもよ」

サイネリアは急に顔を歪ませました。
マルメロはサイネリアの表情に驚きます。
サイネリアは、顔全体から憎悪を現しながら言います。

「王に甘える?絶対に嫌よ。王は私に謝罪をすべきよ」

サイネリアの太く鋭い声に、マルメロは緊張してしまいました。
サイネリアはブツブツと何か言っていますが聞こえません。
その様子は明らかに異常です。
サイネリアであって、サイネリアではない。
そんな様子。

マルメロは、冷静に言います。

「王を殺すなんて駄目よ」

すると、サイネリアの目が見開き、マルメロを見つめます。

マルメロはサイネリアを睨みつけ聞きます。

「わかったわね?」

サイネリアは、我に返ったように優しい表情に戻り答えました。

「そんな恐い事しないわよ。止めてよ、マルメロ」

恐ろしい話しだというのに、マルメロは笑いが込み上げてくるのです。
堪えるのに必死でした。

そして、思うのです。

「やっぱり私の勝ちよ」

マルメロは静かに微笑みます。
サイネリアも微笑み返しました。