空は曇っており星が見えません。
少し風も強く雨の前兆を知らせています。

「私のプチ・ガーデン。そういえば、以前このテラスに名付けたわね」

マルメロは、昔の事を思い出していました。

「あの時も、確かサイネリアに苛立ったのよ。それで、風に当たろうと外に出たの」

風が一層強くふきます。

「あの時は、もう少し落ち着いた雰囲気だったわね」

マルメロは自然な笑みがこぼれました。
小さく息を吐き空を見上げます。

「何故、誰も私を見ないの?」

曇った空をぼんやりと眺めていると、背後に人の気配がしました。

マルメロは、驚き振り向こうとすると声が聞こえます。

「マルメロ様、動かないで下さい」

マルメロは意味が分からず、体が固まってしまいました。
その声の主は話し続けます。

「とても絵になる。もう少しだけ、ジッとしておいて下さい」

マルメロは、この言葉と声に聞き覚えがあることに気づきます。
しかし、誰なのか全く分からないのです。

自分に危害を加える様子ではない、と分かったのでマルメロは言われた通り動きませんでした。

声の主も黙り、鉛筆の擦れる音だけが聞こえます。

「画家?でも、何でこんな所にいるの?」

マルメロは空を見上げながら考えていました。

すると突然、マルメロの鼻の上に水が落ちてきました。

「びっくりした。雨だわ」

土が香りだし、雨が降り出した事が分かります。
マルメロは、動かずに言います。

「画家さん、雨が降ってきたわ。ひどくなる前に、中に入りたいわ」

声の主は、少し残念そうな声で答えます。

「そうですか…。仕方ないですね。雨に濡れる前にお入り下さい」

マルメロは、緊張しながら振り向きます。