しかし、マルメロの期待通りにはいきませんでした。

サイネリアは泣きながらマルメロに訴えてきます。

「王は話しすら聞いてくれなかったわ!息子に会いたいと言った瞬間に、耳をふさいだのよ」

マルメロは悩みます。
サイネリアが頼めば王は必ず許しを出すと考えていたからです。
サイネリアは、涙をぬぐいながら話し続けます。

「逆に辛くなったわ!少しでも、クンシランに会えると期待してしまったからよ。結局、会えないのなら期待なんかしたくなかった!」

サイネリアは、マルメロに怒っているようです。
マルメロは、そんなサイネリアに苛立ちます。

「人のせいにするのは止めなさいよ。サイネリアが決めた事でしょ?見苦しいわよ」

このマルメロの言葉にサイネリアは怒ります。

「見苦しい!?ふざけないで!マルメロ、少しは相手の気持ちを考えたらどうなのよ?冷たい言葉ばかり言わないで」

「私がいつ冷たい言葉を言ったの?サイネリアがクンシランに会いたいというからアドバイスをした。それが上手くいかなかったからって、私の責任みたいに言ってくる貴女の方が冷たく礼儀をしらないんじゃなくて?」

「違うわよ!そういう言い方が冷たいって言ってるのよ。物事はマルメロが考えてるみたいに簡単じゃないの。特に人の気持ちは複雑なの。マルメロは、それが分かってないのよ」

「話し方が冷たいだなんて、ただの悪口じゃない。冷静に考えてみなさいよ。私がサイネリアに酷い事を言った?寧ろ、サイネリアこそ私に酷い事を言ってるわよ」

「私は何も言ってないわよ!そうやって、責めてくるのは止めてよ!!」

サイネリアは、また泣き出してしまいました。
マルメロは呆れてしまいます。

「私の母が言っていたわ。涙が通じる相手以外の前で泣くなってね。初めて、言われた時は悔しかったけど今は分かるわ」

マルメロは遠い昔、母親に言われた言葉を思い出しながら言います。

「その時に誓ったのよ。私は決して泣かないってね」

サイネリアは泣きながら話しを聞いています。
マルメロはサイネリアの背中に手を伸ばし言いました。

「サイネリアは泣いてばかりよ。泣いて何かが解決した事があるの?」

サイネリアの背中を撫でながらマルメロが話し続けます。

「そんな簡単に涙を見せてはいけないわ」

サイネリアは涙を止めようとしています。
マルメロは笑いながら言いました。

「サイネリアの気持ちは分かるのよ。でも、泣いても仕方ないでしょ。クンシランは、きっと良くなるわよ。会えないなら、祈りましょう」

サイネリアはマルメロを見ました。
マルメロはサイネリアから目をそらして言います。

「クンシランが良くなるように祈りましょう」

サイネリアは「ありがとう」と小さく呟きました。

マルメロは、何故か心が痛みました。
この痛みが何なのか、マルメロには分かりません。

「何?この嫌な気持ち…」

いつもなら、腹の底から笑いが込み上げてくるのに今日は違いました。