その日以降、マルメロとサイネリアは手紙のやり取りを始めます。

二人の仲は急速に深まっていきます。

特にサイネリアは、マルメロが大好きな様子。
マルメロを信頼し、一生の友人と喜んでいました。

一方のマルメロは、そんなサイネリアを馬鹿にしていました。

「これだから、お嬢様は馬鹿にされるのよ」

マルメロは、サイネリアを手中におさめたと思い優越感に浸っていたのです。

「サイネリアを使って、上手い具合に先に進めないかしら…」

サイネリアは、隣町の名門貴族です。
そのコネを使いマルメロの理想とする、今よりもっと上の地位を手に入れたいと考えていたのです。

「あれだけの屈辱を味わったのよ。役に立ってくれなきゃ困るわ」

マルメロは、サイネリアとの出会いを思いだしながら小さく呟きました。


ボーッと窓の外を眺めていると、扉を叩く音がしました。
マルメロはため息が出ます。
誰が何のために来たのか分かるからです。

「また、お母様ね…」

ここ最近、毎日、毎日、母親がマルメロの部屋にやってきます。
しかも、同じ事を何度も何度も繰り返すのです。

母親は、扉を勝手に開けて入ってきました。

「マルメロ、子供はまだなの?」

この言葉を、毎日、毎日、マルメロに言ってくるのです。
ハンノキの結婚をして三年、マルメロは19才になっていました。
母親は、三年も経って子供の一人もいないことに疑問と苛立ちを持っていたのです。
しかし、マルメロは子供なんていらないと考えているため母親の問いが鬱陶しくて堪りません。

「お母様には関係のない話しでしょ。止めて下さらない?気分が悪いわ」

マルメロは明らかに不機嫌な顔をします。
しかし、母親はマルメロに言うのです。

「関係あるわよ。孫の顔が早く見たいってね。マルメロ、母になると勉強になるわよ」

「興味がございません。主人も、どちらでも良いと言ってますし」

「マルメロがいらないと言うからよ。あぁ、孫の顔が見たい…」

「知りません。私は、絶対に嫌ですわ」

このようなやり取りを毎日繰り返していました。