マルメロはイライラしながら歩いています。

「何が貴族よ!ただの金持ちな能無しじゃない!」

「見る目がなさすぎ!私の魅力が分からないなんて!」

「私には王族が相応しい!」

マルメロはズカズカ歩きます。

屋敷の扉を勢いよくあけました。

「痛っ!」

男性の声が聞こえました。

マルメロが開けた扉に当たったのです。

マルメロは、鈍臭い男性に更に苛立ってしまいます。

「あら!ごめんあそばせ!暗くて見えませんでしたの!失礼!!」

マルメロの口調は全く反省しておらず、寧ろ怒鳴りに近いのです。

すると、男性が笑いながら答えました。

「なんだ!ワシが悪いのか!それは、申し訳ない事をした!」

マルメロは「馬鹿すぎるわ」と、呆れ無視して帰ろうとしました。

しかし、男性はマルメロに問います。

「使用人がいないから悪いのだ!扉を貴女みたいなか弱い女性に開けさせるとはな!ケガはないか?」

マルメロは「か弱い」の言葉に、少し苛立ちがおさまりました。
か弱いも、生まれて初めて言われた言葉だからです。

マルメロは男性を見ました。
暗くて、すぐには分かりませんでしたがマルメロの知っている人物です。
この町で1番の金持ち、ハンノキです。

ハンノキは35才、独身。
とにかく、体がでかくて顔も整っていません。
更には、豪快で変わり者と最悪な評判の男性です。
良いところは金持ちという点だけ、と口々に言われています。

マルメロはあからさまに嫌な顔をして言いました。

「ええ、大丈夫ですわ。では、失礼」

マルメロは逃げたくて仕方なかったのです。

しかし、ハンノキはマルメロに驚く言葉を投げかけます。

「君は綺麗だな!全てがワシの好みだ!容姿、性格、全てだ!」

マルメロは、気持ち悪くて仕方ありません。
初対面の悪評高いハンノキに褒められても嬉しくないからです。
マルメロは逃げるように歩き出します。
しかし、ハンノキもついてくるのです。