葉は美しい緑に輝き、葉の隙間から暑い光が差し込みます。


肌は汗ばみ、空は青く、大きな白い雲。

様々な虫の声が響き渡り、賑やかさを醸しだします。


「夏は嫌いなんだ」


プチ・ガーデン。


マルメロお気に入りの小さな森。


「夏は騒がしいだろ?感傷になんかふける事もできん。ワシは夏が嫌いだよ。マルメロは夏が好きか?」


ザワザワと葉が揺れる音で、マルメロが返事をします。

「そうか、マルメロは夏が好きか」


泉がコポッと音を鳴らし、返事をします。


「マルメロが気に入る訳だ。この森は生きている」


最初に来た時よりも、更に森は力強く、凛々しく育っています。


「マルメロ、勝手に森に入った事を許せよ」



泉の近く、まだ若い木の苗が一つ。



「まったく。マルメロよ、遊びが過ぎるぞ。今回ばかりは笑えない」


その小さな木の苗に、花を供えます。


「王に近づいて幸せになった人間はいないんだ。ワシは知っている。マルメロは信じなかったがな…」


ぼんやりと木の苗を眺めます。


「マルメロよ、お前は無実だ。ワシには分かる。お前は可愛らしい悪戯と、可愛らしい我が儘が大好きだったからな」


生暖かい風が体を包みます。


「マルメロよ、一つ教えてやろう」



立ち上がり、眩しい空を見上げて言います。



「悪なんか、この世には存在しないのだよ。悪はな、人々が作り上げるものなんだ」



森がざわめきます。風が強くなってきました。



「分かるか?マルメロよ。ワシにとって、お前は可愛らしい存在だ。それ以外の何者でもない」



森が更に賑やかに音を奏でます。


「おお。賢い森だ!分かるか?ワシの言っている意味が!」


葉が擦れるざわめきの音、泉の水が流れる涼しい音、虫達の世話しない声、森が大きな音を鳴り響かせます。


「この森は生きている」


マルメロと同じ言葉を口にします。


マルメロの愛したプチ・ガーデン。

マルメロは帰ってきました。


「勝利をおさめ帰ってくる」


マルメロが誓った言葉です。

マルメロにとっての勝利とは何だったのでしょう。


最後まで悪と呼ばれ続けたマルメロ。


物を盗んだのか?

誰かを虐めたのか?

人を殺したのか?


マルメロは何もしていません。

自分の信じた道を歩いただけです。

しかし、それ自体を人々は悪だと言いました。


悪とは何か。

マルメロの夢は悪だったのか。


悪は、この世には存在しない?

確かに、美しい夢も誰かが「悪」だと言えば、瞬く間に悪へと変わります。

しかし、悪だから悪だと人は言うのです。


悪が存在しないのであれば、何故「悪」という言葉が存在するのでしょう。


ただ、マルメロに関しては確実に言えることがあります。


マルメロは幸せであった、ということ。


そして、マルメロが言う勝利をおさめたということ。

勝利をおさめ、森に帰ってきたということ。


もう誰もマルメロを悪く言いません。


マルメロは悪と戦った一人の女性。


しっかりと勝利をおさめ、人々に教えてくれました。


永遠に忘れる事のない痛みと共に。


悪とは何だったのか。


あなたは悪が何か分かりますか?