「好きな女が出来たから」
ジキタリスは、それだけ言うと家から出ていきました。
マートルは内心、喜びます。
ジキタリスに怯えなくて良くなるからです。
それに、生活もずっと楽になります。
「マルメロ、やっぱり貴女は希望の子よ」
久々に晴れやかな気持ちになったマートルは笑います。
マルメロも、まるで分かっているかのように笑うのです。
「可愛い子ね…。直に1歳だもの。もう、色々と分かるのね」
マルメロはケタケタと可愛らしく笑っています。
そんなマルメロを見て、マートルは元気が出るのです。
「二人で頑張りましょう!」
幼いマルメロを抱きしめマートルは誓います。
ジキタリスが出ていってからの生活は最高でした。
マートルの顔色は良くなり、マルメロもよく笑うようになります。
仕事をするのも楽しくて仕方ありません。
お金は全てマートルとマルメロのために使えるからです。
マートルと同い年くらいの女の子達は、可愛らしくお洒落を楽しんでいました。
ずっと羨ましく眺めているだけでしたが、今はお洒落にまわせるお金もあります。
マートルはマルメロを連れて、洋服を買いにいきました。
憧れてた綺麗な色のワンピースを思いきって買います。
「私って凄い!自分で稼いだお金で買い物をするなんて」
マートルは、マルメロにも可愛らしい洋服を買ってあげます。
白のレースとフリルがいっぱいついた自分のワンピースよりも高い洋服。
「絶対に似合うって思ってたの」
マートルは、この洋服をずっと前からマルメロに着させてあげたいと思っていたのです。
大満足で帰っている途中、マートルの目に美しい物が飛び込んできました。
深紅の口紅。
綺麗な金の容器に包まれた口紅は、宝物のように輝いてみえます。
マートルは口紅に魅入ります。
「なんて綺麗なの?こんな物を唇に塗るだなんて!かっこいい!」
マートルは目を輝かせ飾られている口紅を見つめます。
しかし、洋服なんかよりもずっと高い値段なのです。
「駄目よ。口紅なんて…。マルメロにキスできないもの」
マートルは自分に言い訳をして、口紅の事を忘れようとしました。
しかし、忘れることの出来ないほどの衝撃だったのです。
「いつか、手に入れよう」
マートルは決意します。
あの口紅を手に入れる事を目標にしました。