マートルは泣きます。

泣いて、泣いて、涙を全て出してしまおうと泣くのです。

公園の椅子に座り、マルメロを抱きしめ泣き続けるマートル。

そんなマートルを見ても、誰一人として声をかけてきてくれる人はいません。

それどころか、皆嫌そうな顔をして何処かに行ってしまいます。

12月の寒空の下で、マートルはマルメロの温かみだけを感じていました。


「生きているのね。私が泣いていては駄目よね?」


マルメロに話しかけます。


「私はお母さんよ。マルメロのお母さん。ねぇ、マルメロ?お母さんの事、好き?」


マルメロは眠っています。

「まだ分からないよね。お母さん、頑張るね。だから、お母さんの事を好きになってね?」

マートルはマルメロに口づけをします。
柔らかい頬は冷たくなっています。


「寒いね。帰ろうか」


マートルは立ち上がり、ジキタリスの待つ家へと歩き出しました。

「ジキタリスには求めない。私は私だけを信じて、マルメロを育てあげる」

母親として子供を守るために強くならなければいけないと、マートルは理解したのです。

家に着くと、ジキタリスはイビキをかいて寝ていました。
マートルは蔑む目でジキタリスを見て思います。

「こいつさえ、居なければ…」

しかし、悔しい事に気持ち良さそうに眠るジキタリスの顔とマルメロの顔はそっくりなのです。

「私に似て産まれてほしかったな…」

マートルはマルメロを見つめ、ぽつりと呟きました。