ジキタリスは家でダラダラとしていました。
まだ昼間だというのに酒を飲んでいます。

マートルは、ゆっくりとジキタリスに近づきます。

「ジキタリス、ただいま」

ジキタリスは気怠そうにマートルを見て「あぁ」とだけ答えます。


マートルは無理矢理に明るく笑顔を作り言います。

「ほら、見て!私たちの赤ちゃんよ!」

マートルは、縋り付くようにマルメロをジキタリスに見せました。

ジキタリスに親としての自覚を持ってもらうために。

「ね!?かわいいでしょ?マルメロは女の子なの。ジキタリスに似ているわ」

マートルはジキタリスの言葉を待ちます。

しかし、いくら待ってもジキタリスは何も言いません。
マートルは唇を噛み締めます。

すると、突然マルメロが泣き出したのです。

マートルは慌ててマルメロをあやします。
マルメロは泣き止まずに、苦しそうに泣きつづけます。
そんなマルメロを見ていると、マートルまで泣きそうになってきます。
なかなか泣き止まないマルメロ。

ついにジキタリスが声を出します。

「うるせぇ!それの泣き声が頭に響く!出ていけよ!」

その言葉は、マートルの僅かな希望を消し去るのに十分でした。

「ジキタリス…、貴方の子供よ?」

「気持ち悪いんだよ!俺はガキが嫌いなんだ。うるせぇな。早く、外に捨ててこいよ」

マートルの中で何かが弾ける音がします。
大切な何かが無くなった瞬間です。

「ふざけないで!マルメロは絶対に育てあげる!あんたなんか要らない!出ていってよ!」

「はぁ!?ふざけてるのはお前だろ?お前は言ったよな、俺が側にいれば良いって」

「覚えてないわ!出ていけ!」

泣き叫ぶマートルと、泣き止まないマルメロの声にジキタリスは苛立ちが増します。

「いい加減にしろよ?また、殴られたいのか?」

マートルはハッとします。
泣き止まないマルメロを抱く力が増します。

ジキタリスは、ゆっくりとマートルに近づいてきます。

マートルは恐怖を感じてしまいます。

「殴られたくない!」

マートルは振り返り、扉に走ります。

「最初から、そうしておけばいいんだよ!」

ジキタリスの怒鳴り声。

マートルは逃げ出すことしか出来ませんでした。