「まぁ、お母様ったら日記なんて書いていたの?」

マルメロは驚きました。
母親が、そんな面倒臭い事をするとは思えなかったからです。

「分厚いし、鍵までかけてる…。いつから書いているのかしら?」

マルメロは興味がわきます。

わざわざ鍵までかけている日記帳。

気になって仕方ありません。

「1ページくらい良いわよね」

マルメロは自分に言い訳をします。

母親は昔から大切な物を化粧机の引きだしに隠す事を知っていました。

すぐに化粧机の引きだしを探ります。

案の定、錆びた鍵が見つかりました。

「随分と年期が入ってるわね」

マルメロは、ゆっくりと鍵を開けます。

高鳴る胸を抑え、最初のページを開きました。

『愛する人との出会い』

いきなり目に飛び込んできたのは、甘い一文です。

マルメロは日記帳を閉じます。
見てはいけないモノを見てしまったような気分。
ソワソワと落ち着きがなくなります。

しかし、続きと内容が気になります。

「勝手に人の日記を読むなんて最低よね」

マルメロは自分の欲望を抑えるために、呟きました。

日記帳を机に置き、後片付けを進めます。

しかし、やはり日記帳が気になるのです。

「もう少しくらいなら…、良いかしら…」

マルメロは誘惑と戦います。

「駄目よ、駄目。きっと、お母様の大切な日記帳よ。とても美しく書かれていたもの」

机の上の日記帳を見ながら、マルメロは首を振ります。

「愛する人か…。誰かしら?」

頭の中は、母親の日記でいっぱいです。
なかなか、片付けが進みません。

「駄目!不謹慎にもほどがあるわ!お母様が亡くなったのに、こんな厭らしい欲望に満たされるだなんて。私は、そこまで落ちぶれていない」

マルメロは気合いを入れ、片付けを進めます。

すると、一枚の古ぼけた写真が出てきました。

知らない男と知らない赤ん坊、そしてマルメロの母親の三人が写っています。

マルメロの母親は、今のマルメロよりも若く幸せそうに笑っています。

「お母様よね。じゃあ、まさか…、お父様?」

マルメロは写真に釘付けです。

帽子を被り、マルメロにそっくりな鋭い瞳の男性。

マルメロは、ハッとして机の上の日記帳を見ました。

「まさか、お父様の事?」

マルメロは固まります。
今まで、父親について詳しく聞いた事がなかったからです。
いつも、母親は父親を罵っていました。