あんなに嫌っていた母親なのに、何故か心配で仕方なくなっている自分に初めて気づいたのです。
マルメロは慌てて答えます。

「いえ、そんな事は。知人が倒れたら誰だって心配になるでしょ?」

自分の中に芽生えている感情を殺すように、マルメロは冷たく言いました。
しかし、ストケシアは微笑んで言ってくるのです。

「お母様にお会いするべきです。王への説得を諦めてはいけません。俺からも王に願ってみます」

「止めてよ。ストケシアに恩なんか作りたくないわ。これは私の問題なんだから、首を突っ込まないでちょうだい」

「マルメロ様は、俺を友人だと言ってくれたじゃないですか。恩なんて感じなくていいのですよ。本当の友人なら当然の事です」

マルメロは、またストケシアの優しさに心が震えました。
金のペンダントを握りしめ、友人について考えます。
サイネリアとストケシア。
マルメロにとっての友人は二人です。
しかし、今はストケシアが最も親しい友人のように感じてしまいます。

「本当の友人」

マルメロは、この言葉に引っ掛かるのです。
マルメロにとって、自分以外は敵。
それなのに、ストケシアは味方のように思わせてくれます。
信じるか信じないか、マルメロは悩みました。

「マルメロ様、夜風が冷たくなってきました。中に戻りましょう」

ストケシアの声にハッとして、マルメロは辺りを見ます。
先程まで、赤く染まっていた空が真っ黒になり辺りは静寂に包まれています。
いつの間にか夜になっていました。
マルメロはストケシアに答えました。

「私は、もう少しここに居るわ」

「夜風が体に障りますよ」

「大丈夫よ。そんな、柔な体じゃないの。私って強いのよ」

マルメロは笑います。
ストケシアは少し安心した様子です。

「そうですか。あまり長居しては駄目ですよ。俺は仕事があるので戻りますね」

「ええ。ありがとう。ストケシア、貴方を信じるわ」

ストケシアは意味が分からないといった様子ですが、マルメロにとっては大変な意味を示す言葉です。

誰一人信用しなかったマルメロが、ほんの2、3回会っただけの人間を信用したのです。
それだけ、ストケシアには不思議な魅力があったのです。

「信用して頂けて嬉しいです。では、失礼します」

それだけ言うとストケシアは城の中に消えていきました。
マルメロは空を見上げます。

「お母さん、生きて」

幼かったマルメロが必死に願った言葉。
大人になったマルメロも、その言葉を必死に願いました。