美紗は素早く、辺りを見まわす。

廊下には誰もいなかった。

誠のすぐ脇に立ち、クスクスと笑いながら、小声で言った。


「やだあ、
美紗って言っちゃだめじゃん」

「悪い。なんかいきなり来たから、
びっくりして…」


誠は頭を掻く。
背が高く、細身なのに、肩幅の広い誠は作業着姿もとてもサマになっていた。


「ヨシダ課長に頼まれちゃった。第二応接にお茶ヨロシクって」


美紗が唇を尖らせて言うと、誠は、人の良い笑顔をみせる。


「第二応接なら、俺、今から入るよ。お茶、持っていくよ」


誠はファイルを右脇に挟み、美紗から茶の載ったトレイを奪い取るようにする。


「えっいいの?」

「構わないよ。ありがとさん」

去って行く誠の男のくせに小さな尻の後ろ姿を見ながら、美紗は身をよじって思う。


(なんだか色っぽいんだよね~
誠の作業着姿って!)


美紗にとってここは、派遣先として最高の会社だった。


仕事も恋も、ほぼ同時に手に入れることが出来たのだから。