歩いて私の家が上にある坂道に着いた時、早瀬くんは言った。


「あ、ここ家なんだ」


「へえ…ここだったんですね」


また初めて知るような返しをする。実は家を知っているなんて、少しストーカーなような気がした。正当な理由で知っているのだけど…。


「じゃ、私の家はもう少し進んだところなんで…」


「家まで送ってくよ?」


早瀬くんの言葉は嬉しかったけど、あんまり迷惑はかけたくないから。


「大丈夫です。近いんで」


そう言って断った。


「…じゃあ、またね」


少し元気なさげに早瀬くんが言った。


「さよなら」


私は坂道を歩き始めた。


少し行って振り返ってみると、早瀬くんがこっちを見て手を振った。


私も少し照れながら手を振り返した。