光の中のラビリンス[仮]

震えを抑えるために、一度深く深呼吸をすると少女は再び彼を睨みあげる。

自分たちのことなど、この男に分かるはずがない。

……理解されて、堪るものか。



「あなたには分からないでしょうね。私たちを犬以下としか思っていない、“あなた達”には」



皮肉をたっぷり含め、少女は吐き捨てるように言い放つ。

この腐りきった世界で、自分たちの苦しみを、辛さを、屈辱を知るのは、奴隷である自分たちだけ。

物ごころついた時から浴びせられた蔑みと侮蔑の視線が、何よりの証拠だ。

この世界に住む“自由の利く者”達は、誰一人として奴隷を人間としてみない。

誰一人として奴隷の存在に異を唱えない。

なぜなら、この世界では自分たちが……奴隷が存在して当たり前だからだ。

誰もこの存在が異常だと、そう思う者はいない。




「……腐りきってる」

「――本当にね。ボクもそう思うよ」

「…………。え?」



ぽつりと無意識に呟いた言葉に、まさか返答が返ってくるとは思わず、少女は大きく見開いて少年を凝視した。

今、彼は何と言った?

自分も一緒だと、そう言ったのだろうか。

信じられない彼の言葉に、少女はふるふると頭をふった。

そんなはずはない。奴隷でない彼が、自分と同じ意見など、そんなことあるはずがない。

そもそも、彼女は腐りきっている、しか言っていないのだ。

彼が勘違いしている筋は大いにあり得る。

乾いた笑みを零して、必死に否定する彼女の胸中を知ってか知らずか、少年は後ろ手に手をつくと足を投げ出して空を見上げる。




「同じ人間を人間と見ずに道具のように扱うこの世界は、狂ってるよ」

「――っ」



少女は息をつめ、信じられない者を見るような目で彼を見つめた。

確かに彼女の視線を感じているはずの彼は、こちらには一切視線を向けず一つ弾みをつけると頭の後ろに手を組んで、その場に寝転がる。




「誰一人として彼らの存在に異を唱えない。それが当たり前だと思ってる。慣れって言うのは、怖いね」