昨日、お母さんは一度も顔を出さなかった。
そして今日、あと少しで船に乗るのに。
部屋からは出てこない。
たぶん、あたしのため。
お母さん、行ってきます。
あたしは昨日買ったワンピースの方を着て部屋を出た。
すると、そこにはソラの姿。
「日奈、おはよう」
あたしはスルーして荷物を背負って階段を降りていく。
「おい、日奈」
がっしりと腕を掴まれて振り向かされる。
「離して」
「なんでだよ」
「今から船に行かなくちゃいけないから。
そこで会えるじゃない。何を急いでるの?」
あたしじゃないみたいだった。
あたしから出た声は恐ろしいほど冷たくて、泣きそうな声だった。
「そう、だな…」
「そうだよ」
あたしは腕を振り払うと家を出ていった。