鬼上司のとろ甘な溺愛




わざわざ送ってもらう距離でもない。
そもそも今もその整った顔を歪め、険しい顔をしている神林課長の車に乗るなんて、私には恐ろしかった。
一部では鬼課長と呼ばれる人なのに、そんな険しい顔をされれば戸惑う。
私、何かミスでもしたかな。さっきの資料、なにか間違っていたとか?

今まで幸いにも課長に怒鳴られたことはないが、絶対何か怒られる。そう思わせる顔をしていた。
ビクビクしながら必死に断る私に神林課長はため息をつく。


「あのな、雪村。俺は怒ってないから怯えんな。何があったか知らないけど、そんな今にも泣きそうな顔の部下をこんな遅くに独りで帰せないだろ」
「え……」


予想外の言葉に私は目を丸くした。
泣きそう? 私が?
神林課長の言葉に固まっていると、課長は車に体重をかけ、腕をくんでこちらを見た。


「泣きそうだなんて。それは課長が怖い顔しているから」
「悪かったな、地顔だ。っか、そうじゃないだろ。ビールを大量に買い込んで今にも泣きそうな顔してそんなんで一人で歩いて帰せるか」


とりあえず乗れ、と有無を言わせない神林課長の言葉につい部下の習性なのか従ってしまう。