鬼上司のとろ甘な溺愛


涙なんて出なかった。
六年も付き合って、結婚まで意識したのにあっさり浮気されてしかも証拠現場まで見て、どんな三文小説なんだと自嘲の笑みがこぼれる。
それでも、六年いう期間は決して短くはなく、叫びだしたい気持ちを抑えるために駅で缶ビールを買って飲みながら歩いていた。
酒に弱いわけではないし強くはない。普段は家飲みをしている私だが、今日は家に着くまで我慢は出来なかったし初めて意識をなくすまで飲みたいと思っていた。


「もう、空だし」


軽くなった缶を確かめるように軽く振るが、水音はしない。
まだ足りない。意識をなくすまで飲んでいたい。いっそのこと、このままどこかに頭をぶつけて記憶喪失になりたかった。
重いため息をつくと、目線の先に明かりがみえた。
24時間営業のよく行くコンビニ。
土日は酒を飲みながら引きこもろう。
そう決めて足早にコンビニへ入っていった。