「那月さん…?」
手紙を持って暗くなった山道を急ぐあたしの前に、着流しの長身なシルエットが見えた。
「結論が出ましたか?」
「うん」
しっかり頷きながら、駆け寄って隣に並んだ。
そんなあたしを抱き寄せてくれながら、那月さんがフッと笑ったのが分かる。
「さて、克彦には何をして償って貰いましょうか?
私と花乃の時間を邪魔した上に、考え込んだ花乃がなかなか会いに来てくれなかったんですから」
結論を出して那月さんに話そうと思っていたあたしは、あの日からしばらく如月窯に行っていない。
あたしの気持ちを汲んでくれたのか、那月さんも他愛もない日常を手紙にして楓ちゃんに持たせるだけで、月守旅館まで降りては来なかった。
「あたし……歌う」
「えぇ、伴奏は私ですね」
二人で手を繋いで月の原までゆっくり歩く。
いつも那月さんは、亀の様にのろまなあたしを、ちゃんと待ってくれる。
だから、あたしは前を向いて進めるんだ。
二人で祠に手を合わせると、夜空を見上げた。
薄く墨を流したような雲の向こうに、お母さんの居るお月さまが見えた。
「今日……」
「雪乃さんの、月命日ですね」
雲の切れ間から、真ん丸のお月さまが顔を覗かせる。
と、不意に那月さんの握る力が強くなった。
「……那月さん?」
どうしたのかと顔を見上げると、真っ直ぐに一本の木の下を指差した。
「…見えますか……?」
「ぇ…」
何が?って言おうとしたあたしの目に、信じられないものが映った。
