あの日から、一人になるとうじうじ考え込んでしまう。
歌いたい気持ちもあるから、悩んじゃうんだけど……
あの人が言った事は、到底許せる事では無くて、今思い出しても涙が滲んでくる。
……お母さんを否定された。
どうしてもその思いが消えなくて、それっきり連絡が来る事も無くなったアドレスを、ため息を付きながら眺めていた。
「あたし……どうしたら良いんだろ」
一人言は部屋の隅に消えてしまい、疲れた体をベッドに投げ出すと天井を見上げる。
木目を視線で追いながら、それでも寂しそうなあの人の瞳を忘れられないと、またため息が零れた。
あたしが歌っても、お母さんは悲しまない?
それはそうかも知れない。
だって、お母さんはそんなに心の狭い人じゃないもん。
でも……
また、悩みのループにはまりそうになった時、小さくドアを叩く音がした。
「……はい?」
「あの、手紙です」
瑞穂ちゃんが持っているのは、ごく普通の茶色の封筒。
差出人の名前はなかった。
お礼を言って受けとると、ペーパーナイフで封を開ける。
中から出てきた便箋には、
『心無い事を、言ってしまいました。
本当に申し訳ありません。
俺の顔など見たくも無いと思います。
ですが、どうか二人の結婚式だけは
参列してやって下さい』
と、だけ書いてあった。
最後に名前は無かったけれど、誰からの手紙なのかは直ぐ分かる。
短い文からは、いつものチャラそうな雰囲気も、冷たくて寂しげな雰囲気も伝わっては来なかったけれど。
あたしは、この手紙で決意した。
