花色の月


「……何がですか?」


克彦お兄ちゃんを置き去りにして、あたしの隣に座った那月さんの視線は手紙に落ちた。

分かりやすく機嫌が悪くなる那月さんが面白くて、つい笑みがこぼれてしまう。



「花乃は、桜介にもあげませんけどね」


「フフッ、あげないで下さいね」



「ねぇ、そろそろ本題に入ってもいい~?」



あたしと那月さんの後ろから、情けない声で訴える克彦お兄ちゃん。



「やっとですか。いつまでも遊んでいる様なら、月守旅館に素性を話して放置して来るところでした」


それは、針のむしろでしょうねぇ……

武さんとかから、殺人的な視線を食らいそうよ?視線だけで済めば御の字かしら。

真っ青になって首をブンブン左右に振っているのを見ると、予想はついてそうだけど……



「実はね、うちの親……克也さんと母親はさ、式をしてないんだよね」


「親父って呼んでるんでしょう?それで言ってください。その方が……ホッとする」


「そ、そう?じゃあ……親父がさ、花乃ちゃんに許して貰っていないのに、神様の前で誓うなんて出来ないって。こればっかりは頑固でさー」



克彦お兄ちゃんは、湯上がりの綺麗に染められた頭を掻いて、言いにくそうに口を開けたり閉じたりしている。

美容師さんが髪を染める時って、自分でやるのかな?なんて、どうでも良い事を考えながらそれを見ていた。



「さっさと言いなさい。出ないと死体も上がらない滝壺に放り込みますよ」



那月さん、それは物騒過ぎますよ…
なんせ、この辺りで起こる神隠しの正体はあの滝壺だって噂なんだから。