朝起きると、雨はすっかり上がってた。
いつもと同じように支度して朝ご飯をお腹に収めると、わたしは家を出た。
「うわぁ……」
空は思わずため息が出ちゃうくらい綺麗なスカイブルー。
白い太陽の光がきらきらと降り注いで、街路樹の影を道に焼き付けてる。


アスファルトに視線を落とすと、あちこちに水溜まりが出来ていて、道を歩くと、その天然の鏡は空の青い色を映して、まるで空に挟まれてるような感じだった。
水溜まりの中に手を伸ばせば、青い空を掴めそうなくらい。
その向こう側で、ひっくり返したみたいな世界が広がってるような、はっきりとしたブルー。

「咲」

ヒナちゃんだった。
わたしの後ろから歩いてきて追いついた。
「一緒に行こ?」
ヒナちゃんはいつもとおんなじようににっこり笑ってくれた。
その笑顔にじんわりと胸があったかくなる。
「うん」
わたしは大きく頷くと、ヒナちゃんと並んで道を歩いた。

「昨日は、ごめんなさい」
ヒナちゃんがポツっと言った。
「え?」
「咲に雨の中帰らせちゃった」
ヒナちゃんは、本当に申し訳なさそうにした。
「わたしなら平気だよ。謝らないで、ヒナちゃん」
「うん……」
ヒナちゃんはまだすっきりしない顔だった。
やがて、もう一度口を開いた。
「それでね、話そうとは思ってたんだけど……なかなか言えなくて。こういうの、なんて言ったらいいのか……」
わたしはヒナちゃんの言葉を待った。
「私ね」
「うん」
「小林君にね、告白、されたの」
「そ、そっか……」
「前からね、付き合って欲しいって言われてたんだけど、上手く断れなくて」
「うん」
わたしは慎重に言葉を選ぶヒナちゃんを見守った。
察しのいいヒナちゃんには、わたしが小林君のこと苦手なのはバレバレだろうから、ヒナちゃんは一生懸命言葉を選んでいた。
「でも、よく知らない人とはお付き合い出来ないって、ちゃんと断ったのよ? けど、一度でいいからデートして欲しいって」
結局断りきれなかったって、ヒナちゃんは最後にポツっと付け加えた。
胸が苦しくなった。
それから深呼吸して、ヒナちゃんはわたしを見た。
「それでつい、昨日約束しちゃったの、来週の土曜日。だから、ごめんなさい、咲と出かけられない」
「う、ううん、気にしてないよ。大丈夫」

それよりもわたしは、不安げなヒナちゃんのことが気がかりだった。