まさか、お城の中に温泉があるなんて思いもしなかった。

わたしはミウチェさんによって、城内のどこかにある浴場に連れて行かれ、あれよあれよという間に着替えをさせられてしまったのである。
身体の汚れを落とし、温泉に浸かって出てくると、ミウチェさんが綺麗な白いワンピースを用意して待っていてくれた。
黄色のパンツとセットらしくて、着てみるとサイズはぴったりだった。
お花みたいな香りがする。

「わぁ、よく似合ってる!」
ミウチェさんがはしゃいだ。
「そ、そうですか……?」
「うんうん、少し丈が違うかと思ったんだけど、大丈夫そうね」
にこにことわたしの世話をしてくれるミウチェさん。
何だか申し訳ない気持ちになってくる。
「あの、ご迷惑かけてちゃってすみません……」
わたしが言うと、彼女はわたしの手を取った。
「いいのよ、気にしないで。困った時はお互い様じゃない。それに」
ミウチェさんが少しだけ表情を曇らせた。
「同年代の子って、ここにはあんまりいないから」
わたしの髪を梳きながら、ミウチェさんは続けた。
「私、あなたが悪い人じゃないって分かるの。だからエンリも連れてきたんだろうし」
エンリくんの名前が出てきたので、わたしは一瞬ドキッとした。
何故だろう? 少し、心拍数が上がったような。
「もし、行く宛に困ってるなら、ここに居て。……って、言っても、まずはお父様の許可をもらわなきゃいけないんだけど、ね?」
「ミウチェさん……」
わたしにも分かる。彼女がとてもいい人なんだってことが。
理屈じゃなくて、フィーリングが合うっていうか、勘みたいなものだ。
「ミウチェって呼んで?」
花のような笑顔。
「えっと、じゃあ、わたしも咲って」
ドレッサーの鏡面に映るお互いの顔を見て、微笑んだ。
何だろう、凄くホカホカする。

こんな場所に放り出されて本当に不安だったけど、少しだけホッとした。
正直、家に帰れるかどうかは分からないけど、こんなに親切な人と出会えたのは幸運だと思う。

前向きに、前向きに。

自分を励ます。
じゃないと、ただでさえ後ろ向きなわたしだから、家に戻れない、見知らぬ場所だって考えてばかりになっちゃいそうだ。

しばらくして、ミウチェちゃんが、わたしの髪を梳き終えた。

「さーて、これでよし、と!」
ミウチェちゃんはどことなく満足そう。
「エンリがびっくりするわ、きっと」
またドキッとする。
鏡の中のわたしは、温泉のせいか、頬っぺたが紅潮している。
「泥だらけで分からなかったけど、あなた肌がとても綺麗なのね。爪も」
「そ、そうかな……」
爪は手入れしてた。学校じゃあまり派手にはデコレーション出来ないから、透明のを塗ってるだけなんだけど。
「私なんかよりずっと姫らしいわ」
「お姫様?」
「さ、行きましょ」
腕をとられ、わたしは浴場を後にした。