「あの」

どれくらい長い時間が経ったのか、ずっと黙っていたリエンくんが口を開いた。
ようやく落ち着きを取り戻し始めていたわたしは、最後の一滴を手の甲で拭って、リエンくんを見上げた。
明るい色の目が真剣にわたしを見つめてる。

「大丈夫、時間はかかるかもしれませんが、あなたを故郷に帰せるように人をやります」

そう言ったリエンくんは、自信たっぷりだった。

「ただ、それまでは逃げたりなどせず、大人しくしていて欲しい」
わたしは黙って、言葉を待った。
「必ず、故郷に送り届けます」
「………………ふえっ」
リエンくんの声があまりに優しくて、涙腺がまた緩んでしまった。
「えっ?! 何でまた泣くんですか?!」
「ち、違う、んですっ……う、嬉しくて……つい」
わたしは顔を手で覆うようにして、目を逸らした。
きっとすごく真っ赤になってるんだろうなぁ、と落ち込むけど、泣いてる最中はどうにもならないものだ。
「……あの、困るんですが」
「ご、ごめんなさいっ……!!」
頭の後ろの方から聞こえる声が呆れてる。
「まぁ、いいや」
リエンくんはため息混じりに言った。
「とにかく、故郷に帰れるように手を打ちますから」
リリスゥの背中が動いた。
ゆっくりと、リエンくんを見上げた。
「泣かないで下さいよ。女性の扱いには不慣れなんです」
リエンくんはここで初めて子供っぽい顔をした。
拗ねたみたいな、幼い顔。
「ぷっ」
わたしは泣いてたのも忘れて吹き出してしまった。
「な、何で笑うんです?!」
「子供みたいって思って」
「それはあなたでしょう? 私はもう18ですよ、失礼な」
「わたしもですよ?」
ウソじゃない。
こないだ誕生日がきて、わたしは18歳になった。
「え?!」
リエンくんは心底びっくりしたみたいだった。
「それは、また、困ったなぁ……」
少し考え込むような素振りを見せて、リエンくんは再び手綱を跳ねさせた。