「あ」
リリスゥの背中に乗って、どれくらい揺られただろう。
わたしは、ようやくふんぎりがついて、声を出した。
「あの……」
拷問とか、不穏当なことを聞いて、どう声をかければいいのか悩んでしまう。
けど、切り出したのはわたしなんだし、ここで言葉を途切れさせるわけにはいかない。
「わたし、どうなるんですか……?」
十分に言葉を選んだつもりだったけど、そういうのって、頭ではちゃんと考えていても、口にすると違った形になるんだよね。
「どうって……うーん、どうなりたいです?」
さっきの話なんてどこかに忘れてしまったかのようなリエンくん。
わたしの方には目もくれず、ひたすら前を見つめている。
陽の光をまっすぐに受けて、赤い瞳が一層きらきらと輝いた。
一瞬息が詰まって言葉を失いかけたけど、意を決して言った。
「ご、拷問、とか、そういうのは、ヤです……」
それを聞いたリエンくんがぷっと吹き出した。
「誰が、誰を拷問するっていうんです? 大丈夫、貴女をどうこうしようとは思っていませんよ」
やっぱり何でもないような顔で、リエンくんはカラカラ笑う。

わたしなりの精一杯だったのに。

気が付くと、わたしは涙を零していた。
わたしにとっては、とても重要なことなんだから。
いきなり知らない場所に放り出されて、拷問がどうのとか聞かされて、穏やかでいられるわけない。
泥だらけの手の甲にポタポタと涙が落ちた。
「わっ……?! リ、リリスゥ、止まって下さい!」
がくんと大きく揺れてリリスゥが脚を止める。
ぶるるっと鼻を鳴らして、面倒くさそうにわたし達を一瞥する。
けど、すぐにぷいっと前を向いた。
「ひっ、く……」
わたしは嗚咽まで漏らして、止まらない涙を必死に拭っていた。
「あ、あの……」
リエンくんが遠慮がちに声をかけてきた。
「すいません、無神経でした……」
「い、い……んで、す……」
恥ずかしいくらいに言葉が途切れてしまう。
わたしは、しばらく風に吹かれながら、リエンくんの腕の中で泣いていた。