──もしそうなったら?

 越石の言葉が、美咲の脳裏から離れない。

 ──また、あの口笛が聞こえたら?

 美佳と手を繋いで帰る道すがら、美咲の頭の中で、ぐるぐると回る。

『然るべき処置? 娘を、殺す?』

 唇が乾く。

『殺せるのか?』

『殺すしかない。殺せ、殺せ』

 心の中で、はっきりとした自分の声が響く。

 美佳はスキップを踏んでいる。

「ねえ、お母さん」

 美佳に声を掛けられ、我に返った。

「明日から、学校に行っていい?」

 美佳の無垢な笑顔が、美咲を押し潰す。

「先生も行ってもいいって仰っていたし、大丈夫よ」

「やったあ」

 美佳は現れた白い家に向かい、走って行く。

 その後ろ姿を、美咲は目で追う。

『止められないのなら、いっそのこと……』

 信一郎が死ぬ間際、美佳は夫婦の宝物だと叫んだ。

 金山静江は自分の娘を犠牲にされながらも、生きている可能性に苛まれ、焼き殺した。

『ああ、神様……』

 美咲は天を仰いだ。

 どんよりとした曇り空が、今にもこの母子を押し潰そうとしていた。



エピローグ

完結



「真夜中に口笛が聞こえる」

ペンコ著


─ 了 ─