「ぐじゅぐじゅになったところで、こうして花を挿す」
変わり果てた宮坂の肉体に、バラの茎の尖端がぷすり、ぷすりと差し込まれる。
「残念ながら、この男は死んでしまいましたが、生きていればその間、触媒でいられるんですよ。そこの民代のようにね。ククク」
「ああ、ううう」
民代が声を上げる。
信一郎はあまりのおぞましさに、声を失った。目の前の光景、これは現実のなせる業なのか、と。
「この男は巡査でしてね。私にしてみれば公僕としての生前より、役に立つというものです」
傍らにいる宮坂の死体は、まるで畳を噛むように這いつくばっている。
白河のこの言葉を聞いて、哀れな姿となった男が、妻の言っていた宮坂巡査だろう。
「私もある意味、国に仕えていた時期がありましてね。私を認めなかった国とその手先どもは、今更、私とその研究を手に入れようと動き出しているらしいのです。ここは隠れ家のようなもので、なかなか居心地が良かった」
白河は建家を眺め、美佳に視線を合わせる。
「さぁ、美佳ちゃん。お父さんの番だよ。きれいなお花畑にしてあげるね」
「イヤッ、お父さん!」
「やめろ!」
「貴方にも罰を受けて貰う。当然だろう? そして、それを見届けるのが、この子の罰だ。貴方がお花畑になった時、世話をして貰う。それが、この子の本当の罪の償いだと思わないかね?」
「狂ってる。アンタ狂ってるよ」
「正常ですよ。どうです。いきますよ。服の上からですけど、ほうら、とろーり」
「うぐうああぁ」
お玉に掬った緑色の液体を、信一郎の腕に垂らす。左腕から指先に掛けて侵食し、グツグツと煮込まれたような熱をもった。
「お、お父さん!」
「嫌だ! 嫌だ……」
痛い、という言葉はもはや通り越して、人間ではなくなる恐怖感が、信一郎を掻き立てる。
「美佳、美佳……」
意識を失いそうにもなるが、信一郎は必死に堪えた。
美佳がいるのだ。自分が美佳を救わなければ、誰が救うというのだ。何とかしなければ、何とかしなければいけないのだ。
「では、もう一杯」
白河から、あの口笛が出る。
楽しそうな悪魔の音色。
さながら、違う世界へ誘(いざな)う儀式のようだった。
変わり果てた宮坂の肉体に、バラの茎の尖端がぷすり、ぷすりと差し込まれる。
「残念ながら、この男は死んでしまいましたが、生きていればその間、触媒でいられるんですよ。そこの民代のようにね。ククク」
「ああ、ううう」
民代が声を上げる。
信一郎はあまりのおぞましさに、声を失った。目の前の光景、これは現実のなせる業なのか、と。
「この男は巡査でしてね。私にしてみれば公僕としての生前より、役に立つというものです」
傍らにいる宮坂の死体は、まるで畳を噛むように這いつくばっている。
白河のこの言葉を聞いて、哀れな姿となった男が、妻の言っていた宮坂巡査だろう。
「私もある意味、国に仕えていた時期がありましてね。私を認めなかった国とその手先どもは、今更、私とその研究を手に入れようと動き出しているらしいのです。ここは隠れ家のようなもので、なかなか居心地が良かった」
白河は建家を眺め、美佳に視線を合わせる。
「さぁ、美佳ちゃん。お父さんの番だよ。きれいなお花畑にしてあげるね」
「イヤッ、お父さん!」
「やめろ!」
「貴方にも罰を受けて貰う。当然だろう? そして、それを見届けるのが、この子の罰だ。貴方がお花畑になった時、世話をして貰う。それが、この子の本当の罪の償いだと思わないかね?」
「狂ってる。アンタ狂ってるよ」
「正常ですよ。どうです。いきますよ。服の上からですけど、ほうら、とろーり」
「うぐうああぁ」
お玉に掬った緑色の液体を、信一郎の腕に垂らす。左腕から指先に掛けて侵食し、グツグツと煮込まれたような熱をもった。
「お、お父さん!」
「嫌だ! 嫌だ……」
痛い、という言葉はもはや通り越して、人間ではなくなる恐怖感が、信一郎を掻き立てる。
「美佳、美佳……」
意識を失いそうにもなるが、信一郎は必死に堪えた。
美佳がいるのだ。自分が美佳を救わなければ、誰が救うというのだ。何とかしなければ、何とかしなければいけないのだ。
「では、もう一杯」
白河から、あの口笛が出る。
楽しそうな悪魔の音色。
さながら、違う世界へ誘(いざな)う儀式のようだった。



