次の日の朝、家の周りをひょろ高い草に覆われていた。

 細い葉っぱが噴水のように、等間隔に茎から突き出ていてだらりと下がっていた。

 植物の高さは、信一郎の胸まで伸びている。

 地面からは誰かが間引きしたように、疎らに生えていたのだが、これでは流石に、異常現象だと言わざるを得ない。


「ナンなんだよ、これは・・・・・・」

 信一郎は唖然とした。

 一晩で変わり果てた自分の敷地に、頭の整理が付かなかない。

 何とかしなければ……。

 これは異常なのだ、そう言い聞かせる。


 信一郎は意を決すると、会社に休みの連絡をした。

 開店に合わせ、車を走らせてホームセンターへ向かう。

 ガーデニング用品の売り場へ直行し、扱いやすい大きさの鎌を買った。


 そして家に戻るなり、その鎌を使って、一心不乱に刈りだす。
 
 素晴らしくよく切れる鎌だった。使っていて気持ちがいい。


 茎を掴んで、鎌で刈る。無心に刈る。



 これでもか、これでもかと、心の中で叫び続ける。


 刈る度に、プツプツと、赤い粒のようなものが飛ぶ。


 外の様子の異変に気付き、美咲が家から出て来ると、思わず悲鳴をあげた。

 信一郎の顔面はさながら、返り血を浴びたように、真っ赤であったのだ。

 全身にべったりと着いた植物の液体は、まさに血のりのようだった。



第九章

「真夜中に口笛が聞こえる」

完結