「いったい、何やってるんだ」

「だめ、行かないで」

「しかし……」

「私と美佳の傍を離れないで……、お願いだから」


 ふと耳を澄ませると、足音が消えていた。


「高崎さーん。ワイルド・レドリックを見付けましたよ。貴方達だったんですね」

 大きな声だった。

 白河は干からびたワイルドレドリックを家の裏で見付け、掲げていた。


「一体どういうことだ?」

「知らないわよ」

「わたし……、わたしがね。勇馬君が危ないと思って、庭から避けたの。家の裏にバラを置いて……」

 後ろから、ふいに美佳の声がした。両方の目が潤んでいる。今にも泣き出しそうなのを堪えて、搾り出すように、懸命に言葉を繋ぐ。

「何だって!」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 信一郎の驚きの声に、もう、美佳には何も聞こえなくなった。

 ただ、謝り続ける小さな姿に、信一郎もこれ以上、責めようという気は失せた。


「とにかく、白河さんに謝ろう。話をしてくる」

「だから、行かないでって」

 立ち上がる信一郎を、美咲は止める。

「何で? このままにしておけないだろう。勝手に家の敷地にまで入られて」

 窓を開ける。

 白河が去っていく。自分の家へ帰って行くのが見える。


「どう?」

 美咲が恐る恐る尋ねた。

「もういないよ。帰ったみたいだ」

 溜息を一つ着くと、張り詰めていた信一郎の全身から、急激に力が抜けた。