「白河さーん、警察です」

 ジジーッ、と鳴らした電子音の後、ウンともスンとも言わない。

 もう一度鳴らし、待つこと五分。

「いらっしゃらないんですかー?」

 宮坂は一分待ったが、何も変わらない。

 門の扉に触れると、ギイギイと音を立てて、奥に開いた。

 暫く考えていたが、結局、宮坂は繁った草を避けて玄関に向かった。

 あと一歩で玄関戸にたどり着く、というところだった。


 そこで、ソレが、耳の中まで入り、鼓膜を揺らしたのだ。


「あああ……、あああ……」

 小さな呻き声のようなものだ。

 宮坂は耳を澄ました。確かに声がする。家屋の裏手からではないか、と思った。


「白河さん! 大丈夫ですか!」

 何かあったに違いない。古い引き戸に向かって、宮坂は今度は大きな声で呼び掛けた。

「白河さん! 返事をして下さい!」

 宮坂はガタガタと戸を叩く。

 反応がない。


 裏手に回ろうとしたところ、うっそうとした庭の地面が、一歩進むごとに宮坂の足が沈む。

「あああ……、あああ」

 やはり裏手だ。間違いない。そこから声がする。

 そして、確実に声に近付いている。


 宮坂は植物を踏み付け、急いで家屋を回り込んだ。そこには、擦りガラスのような、汚れたガラス戸があった。

 宮坂は僅かに残った透明部分に、瞳を近づける。


「なっ!? なんだ! こ、これは……!?」


 ガラス戸を開けようとするが、レールに枯葉が詰まっていて、思うように開かない。

 力任せに、ようやく少し隙間が開いた時、宮坂は背後に人の気配を感じた。


「ぐあっ」

 熱い。
 直接火に炙られたような、燃やされたような感覚だった。

 三本の熊手が、宮坂の首裏に鋭く突き刺さり、引き抜くと、やはり三本の血がぴゅうぴゅうと噴き出た。

 汚れたガラス戸に唇と眼球を押し付け、宮坂はずるずるとその場に崩れ落ちた。