「病気? 白河さんの奥様のお姿は、一度もお見掛けしてませんが……」

「民代さんです。確か、足が不自由でしてね。外には出られんのですよ。何でも庭で転んで、両足が動かんとか、なんとか」

 別に民代のその部分が悪いのかどうかまで知らなかったが、宮坂は自分が少し不自由している左膝をさすってみせた。

「そうなんですか。以前、旦那様が奥様のことを、買い物に行っているとか仰ってましたよ」

「うーん。おかしいですね……。昔は民代さんをよく見掛けましたけど。──しかし、それにしても、最近の若いもんがこういう地道なパトロールを嫌っとるから、困ったもんですよ。だから、あの家に私ども警察は、一年以上も伺っておらんと思いますよ。地域密着型を目指すとか何とか言っても、行動が伴わんとイカンですな……。いや、これは失礼。初対面の方に愚痴ってしまいましたな」

 宮坂は手拭いで、こめかみ辺りに垂れてきた汗を、飛んできた虫をやっつけるかように、パンッと叩く。

「うふふ、そうですか。ご苦労様です。──とにかく、話だけでも聞いて頂けて、ありがとうございます。」

「いえいえ、なんの。我々の仕事ですよ。それとなく白河さんにも事情を伺って、話をしてきますよ。ええ、勿論、心配は入りません。奥さんの事は申しませんよ。我々は慣れてますから。それでは行って参ります」

 宮坂はそう言うと、一歩引いて敬礼した。美咲に笑顔で見送られ、宮坂は高崎家を後にする。次に向かったのは勿論、白河の家だ。