暫くして美咲は心配になり、公園まで出てきた。ちょうどその時、家から飛び出してくる時子にばったりと出会った。

 泣きじゃくった時子の顔は真っ赤に腫れて、ボサボサ頭のまま、財布一つを持って、家を飛び出して来たようだった。

「アタシ、この家、出て行くわ。旦那がぶったのよ! 浮気したのよ! くやしいし、みっともない」

「しっかりして! 時子さん」

 美咲が肩を撫でると、時子は幾分か落ち着きを取り戻したようだった。

「ア、アレ? アタシ、何言ってんだろ? 格好悪い……。美咲さん、ごめんなさい」

 まだ興奮の冷めきっていない時子は、美咲の手をほどいて、駅に向かうつもりなのか、下り坂を走って行く。

「待って、時子さん!」

「いいから、放っとけって。僕たちが口出しすることではないよ」

 美咲が引き止めようとすると、信一郎の声で体が固まった。背広とネクタイ姿の信一郎が、家に向かって歩いて来ていたのだ。

「でも……」

「時子、こっちに出てきませんでしたか?」

 暗闇から、時子の旦那が悠々と現れた。残された二人が顔を見合わせる。

「多分、駅の方へ行きましたよ」

 信一郎が答えた。美咲は目を合わそうともしない。

「すみません。恥ずかしいところをお見せしてしまって。駅の方に行ってみます。失礼します」

 そういうと、時子の旦那は駅の方へ、後を追い掛けて行った。

 追い掛けるといっても、徒歩には変わりはない。急いで連れ戻そうといった気があるようには、到底見えなかった。