次の日の朝、ビーグル犬がごみ置き場で死んでいた。

 全身がどす黒く変色して、所々、白い骨が体から突き出している。もたげるように首が、哀れにもグニャリと折れていた。

 トゲのようになった犬の毛は、まるで新品のブラシのような硬さで、薔薇の茎が押し込まれた口の周りには、ほくろの様な血の斑点が無数に出来ていた。

「アタシ、許せない! 白河ってヤツ。旦那が帰ってきたら、ゼッタイに抗議してやる」

 時子に連れられて、美咲も無惨なピットの姿を目の当たりにした。

「落ち着いて」

「ピットが殺されたのよ! 薔薇を口に押し込まれて。アイツはワイルドレドリックがどうこうって言ってたわ。ウチの犬がやったってことでしょ!」

「時子さん、だから落ち着いて」

「じゃあ、もし勇馬のイタズラだったら、どうなっていたっていうのよ!」

 母親としての、時子の思いだった。

 ピットが殺されたのが植物を荒らした報復だとして、もし勇馬が悪意もなくワイルド・レドリックを隠した犯人だったら、白河はどうしていただろうか? この犬のように、無惨な姿になり、晒されていたのだろうか。

 もし、これが美佳なら……。

 美咲も背筋に水滴が真っ直ぐになぞるようにゾクゾクとする。自分の、唾を飲み込む音を聞く。

 その後、急に喉が熱くなり、渇く。


「アタシの旦那は土建屋の大将なの。イキのいい若い連中もいるから、何癖付けてきたら、同じ目に合わせてやるわ」

「時子さん、駄目よ。ちょっとは落ち着いてよ。まだ白河さんがやったって、決まった訳じゃないわよ」

「あの人に決まってるじゃないの! それに……だって……、だってピットは、アタシがずっと飼っていた犬なのよ。アタシが……、アタシが一人ぼっちで、寂しかった時も、ずっと側にいてくれた犬なの。結婚する前から、アタシを支えてくれた大切な家族なのよ」

 時子は急に泣き出し、ピットの死骸を抱き締めていた。時子の服の白い部分に、ピットのどす黒い血が滲む。

 その姿を見て、美咲は言葉を飲み込んだ。今はそっとしておこう、と美咲は思った。