それから何日か後には、目立たなかった公園に、沢山の花が咲き、賑やかになった。

 信一郎も美咲も、外から眺めて、その彩りを楽しんだ。


「あれ?」

 それは、信一郎と美咲が、久し振りに家のまわりを歩いていた時のことである。

 家の柵にアサガオの蔓が巻き付いていた。

「嫌だな。こんな風に巻き付かれるのは」

 信一郎は蔓を摘んでむしった。細いアサガオの蔓は、その度にぶちぶちと切れる。

「駄目よ、そんなことしちゃあ。アサガオは悪くないでしょ。可哀想よ」

「そうだけど」

 真っ直ぐに責める美咲の言葉に、信一郎は手を止めたが、蔓が自分の家に侵入している様を見ると、忌々しく思えてならなかった。

「ちゃんとこうやってほどいて」

 糸を解きほぐすように、一本一本、丁寧に美咲は絡まった蔓を、柵から取り除いてゆく。信一郎は見ているだけでやる気を失いそうになる。

「面倒だな」

「蔓を乱暴にちぎって、ご近所トラブルなんて嫌よ。信ちゃんは会社行ってるけど、私は昼間からあの口笛を聞かされてるんだから」

「分かったよ。しかし、よくこうもまあ、絡まっているよな。それにしても、まさかアサガオが侵入してくるなんて、思いもしなかったよ」

「棒を立てればいいのよ。ないから柵に巻き付く」

 アサガオを育てた人間なら、誰もが思い出す光景だった。

「あの人、それくらい知ってるんじゃないか?」

「……そうかもしれないけど。じゃあ、わざと?」

「さあね。酷かったら、話をしに行こう。こういうのをやられたら、困るから。柵が汚くなるから」

「とりあえず、全部とれたわ」

 器用にも美咲は柵から綺麗に蔓を取り除いた。

「公園の方へ投げとけよ」

「駄目よ。すぐに分かっちゃうわ。こうして、置いておくの」

 公園の花壇にやさしく置く。

「もっと向こうにやっとけって」

 柵に近かったため、信一郎は堪らず言った。美咲は出来るだけ柵から離しながらも、やはり丁寧に置いた。