「何よ、これ!」

 黒い水が、ヌメリのある赤い液体に変わってゆく。

「きゃっ」

 足元に近付いてきた赤く染まった液体から、美咲は慌てて足を引いた。

「血? ……かしら。そんな。まさか……、あのネコの!」

 想像したくはなかった。しかし、想像してしまう。

 ゴミの山から傘を引き出して、ネコの死骸が出てきた。


 もしかして、ネコに、突き刺さっていた?


 やはり、そう思うしかなかった。

 乾燥していたとは言え、傘を引き出す際に、内臓をグリグリとえぐったのであろうか。

 よくよく思い出せば、ネコの胴体に、穴が開いていたような気もする。

 既にお役所がネコの死骸ごと回収してしまっているので、確認する術もないが……、勿論、死骸があったところで、美咲は確認までしたくはなかった。


 まさかとは思うけど……。

 美咲の想像力が災いする。

 あのネコではないのか?
 最初に挨拶に行った時に見掛けた……。そしてそのネコを、傘で刺し殺したのでは?

 しかし、もしそうだとして、白河さんが殺めたとは限らない。


 美佳は嬉しそうに、庭の真ん中で、大きく傘を広げている。

 洗濯日和に、ネコの死骸を貫いていたかも知れない娘の傘が、気持ち良さそうに、たくさんの日の光を吸収していた。



第五章

「異変」

完結