美咲はゴミ山の中から竹の棒を抜き出すと、猫の死骸を掬い上げ、ゴミ置き場に戻した。

 カリカリで、薄っぺらく垂れ下がった猫の死骸は、見た目以上に重かった。

 美咲は腰に両手を当てて、再びゴミ山を眺めた。

 一通り見渡して、あることに気付いた。

 テレビである。見覚えのあるテレビだ。

 あの白河さん家の裏に棄ててあった、テレビではないか。

 間違いない。色も形も、大きさも、あの時見たテレビだ。

 美咲は確信を持った。


「これ、やっぱり、白河さんの家のゴミだわ。きっとそう……」


 しかし、取り急ぎ家に戻り、役所の真山に電話を入れた。

 ゴミ置き場に大量にゴミが捨てられた事を話し、収集に来てもらう事になった。

 しかし、今後再発しないように、地区内で監視し合い、注意して欲しいと、真山にクギを刺されてしまった。

 美咲は成り行き上、仕方なく了解したが、決して気分の良いものではなかった。


 ◇


 美咲は信一郎が帰ってくると、早速、今日の出来事を話した。

「ねえ、白河さんのゴミが捨ててあったのよ」

「ウン……」

 信一郎は妻の言葉を制し、まず出された冷たい麦茶を口に含む。

「お役所には、地区内で監視し合うようにって、言われたわ」

「そうか」

 信一郎に精気が戻る。

「今、この地区に住んでいるのは、私たちと白河さんの所だけよ。明ら様に、注意しにくいわ」

「そうだな。多分、白河さんのゴミだとして、ゴミ置き場が出来て、喜んで捨てに行ったのかもしれない。悪気がある訳ではなく。ルールを知っていたのは、君だけなんだろう?」

「ええ、そうね」

「僕たちの方が新参者だし、そのうち自治会とか、回覧板とか出来るだろうから、暫くは様子を見守ろうよ」