「冗談よ」

 信一郎は本気にしていた。美咲なら、やらせ兼ねない、と思っている。

 いや、さっき当番制と言った時、真顔だったではないか。



 新しい家の周りは、本当に閑静な土地であった。
 
 夜の静けさが、文字通り、そのまま再現される。

「静かでいいね」

 居間の庭先の窓を開けて、その場に信一郎が座る。

「なあ、美咲。こっちで一杯やろうよ」

「あら、めずらしいお誘いね」

 美咲はまだ、台所にいた。

「ウィスキーの水割り、僕が作るよ」

「ふふふ。そのウィスキーがどの段ボール箱にあるのか知らないでしょう?」

 信一郎はまた一本取られた。

「私が作ってあげるから、そこで庭でも眺めてなさい」

 信一郎は言われた通り、自分の敷地の庭を眺めた。

 何も……ない。
 これから自分達で作る庭なのだ。

 だから、今頭の中で思い描くのは自由だ。


 さて、どうしたものか。


 まだ、この家にはお楽しみの要素が残されているのだ。


「さて、どうしたものか」
 今度は声にして、言ってみた。

「その前に、片付けでしょう?」

 美咲はウィスキーと氷の入った低いコップ、そしてお水を盆に置いて持ってくると、信一郎の傍らに座る。

 信一郎が徐にウィスキーを手にし、注ぐと、カランと氷がコップの中で回った。



第四章

「置き場所」

完結