羅衣は込み上げてくるものを堪えて、
怒りを抱えたまま……
体育館倉庫へと入った。
ボールをカゴに投げ入れて。
ふうっと…息を吐き。
気持ちを……落ち着かせる。
「……ひっかかった。」
「…………?!」
途端に。
羅衣の腕を何者かが掴んだ。
「……ワタリ……?」
羅衣の手を掴んだまま、渡が…にこりと笑う。
「……アンタって割と単純。」
「…………?!」
「俺がここにいること、誰かに聞いた?」
「……?ま、マキから…。」
「うん、それ、俺が頼んでおいた。さりげなく話題に出してって。」
「………!」
「アンタが来るかは賭けみたいなもんだったけど。」
「………何よ…それ。」
「……何しに来たかって…聞いただろ?」
「…………。」
「もう一回、聞かせて。」
「…………断る!!」
「あ?」
「人の気持ちを試すような最低男に…、話すことは…ない!」
「…………。」
渡は少し考えるそぶりをして。
「じゃーいっか。」
パッと手を離す。
「だいぶひどいこと喚き散らしてたし、まあ…全部ごもっともだし。」
「……あれは…、アンタが…。」
「ちゃんと本音も聞けたから…まあいっか。………でも……、戻って来なきゃ良かったのに。」
渡は…目を伏せる。
小窓から月明かりが差し込んで……
渡の、苦しそうな顔を…
ぼんやりと照らし出していた。
「…………。なんで…?」
「やめたくても…止まんなくなるから。」
「……何を…?」
「アンタを…困らせること。」
「……え……?」
渡は羅衣に…ゆっくりと近づいていく。
「…え…?何……?」
後ずさりするけれど、ボールカゴにぶつかって。
もう……、行き場はない。


