この日、珍しくバスケ部の方が先に練習を終えて……
体育館には、用具を片付ける体操部員だけが…残った。
片付けを済ませて、全員で体育館を出る。
「先生、鍵しめなくていいの?」
「今日は峰岸先生が当番だから…俺から声掛けとくよ。」
後藤はそう言って。
体育館の電気を…消した。
外へ出て、各々に…帰路へとついた。
「……あれ?体育館……ライトついてない?」
羅衣の隣りを歩くマキが、後ろを振り返りながら…呟いた。
確かに、消したはずのライトが…煌々と光を放っている。
「……ホントだ。峰岸先生でも点検に来たのかな。」
「…あ……。もしかしたら居残り練習かも。最近渡くんが残って練習していくことあるらしいし。」
「……ワタリが…?」
「羅衣は最近さっさと帰っちゃうから知らなかったか。」
「…………。」
「ストイックだよねー、あんなに上手いのに。さすがはエース。人一倍…努力してんだね。」
「………。努力……。」
ワタリにはわからないだろうと…タカハシが言っていた。
けれど、エースが担う重圧は…ひと一倍、重たいのかもしれない。
罵声を浴びせられるのは、いつも…渡ばかり。
文句ひとつ言わず、黙々と…やり遂げようとするのは。
よほど……心の強い人間だ、ということなのか…?
「………………。」
羅衣を睨みつけた…鋭い瞳。
苛立ちを…
何にぶつけることもなく。ただじっと…抱えこんでいるのだろうか……?
彼に努力はいらないものだと……
皆、そう思いこんでいたのだろうか。
「………。損な…性格だな。」
「……え?」
「あ。やばっ……、ちょっと体育館に忘れ物しちゃった!マキ、先に帰ってていいよ!」
「…………。……ん、わかった。」
羅衣のわざとらしい行動に、マキは多少何かを勘づいたようだけど……
野望なことは言わず、ただ笑って…見送った。


