タカハシと羅衣は今や仲良し。
練習中、何度も目が合って。
その度に、互いにっこりと微笑み合うのだが……。
渡とは、一切そうはならない。
「……見てたって…言ってたのに。」
ちらりとも…見やしないい。
「……可愛いいよな、やっぱり。…一ノ瀬。」
休憩に入ったタカハシは…
タオルで汗を拭きながら、水道の水をごくごくと…飲み始めた。
「え。高梁もしかして渡から略奪…?!」
「そういうんじゃないけどさー…。けど、応援もできないよね。」
「………?どういうこと?」
「何で今んなって…舞台に上がっちゃったかなぁ…。」
「??高梁?」
「………。何でもナイ。ただ、ちょっとだけ…可哀相かなって。」
「…………?」
チームメイトは首を傾げて、高梁と遠くで座り込む渡の顔を…見比べた。
「…お。噂の一ノ瀬じゃん。」
タカハシが体育館の入口の方を見ると、確かに羅衣が水場の方へと…駆け寄ってくる。
すぐ近くには…渡の姿。
「………。……一ノ瀬~。お疲れ!」
羅衣が渡の存在に気づく前に、と、タカハシは声を掛ける。
「…あ、タカハシくん。お疲れ~!」
視線を遠方に移した羅衣は案の定、彼に気づくことなく……。
すぐ側を、スッと通り過ぎる。
その声と、気配に気づいた渡は…
頭に被っていたタオルを取って、顔を上げる。
「…体操部も休憩?」
「うん。」
「…なんか今日凄い技してなかった?」
「…見られてたか。じゃあ尻餅ついたのも…。」
「見えた見えた。」
「……かっこわる~。」
「何で?つか、どういう空中感覚してんだって思うよ。回ってる時とか何考えてんの?」
「う~ん……。」
二人は壁際に座り込んで、雑談を…始める。
チームメイト達は気を利かせて、そろりそろりと離れていき……。
必然的に渡の元へと…集まる。
「…ワタリ~。あれ、いいの?お前が狙ってたんじゃ…。」
「…………。」
渡はそんな二人をちらっと横目で見て。
「……。別に。…いーんじゃないの。」
また…視線を逸らした。


