「これでは駄目だ!!」
彼女が再起したのは翌朝のベッドの上で……。
キッチンへと駆け下り、
腰に手をあて、
リポビ〇ンDを一気に飲み干して。
渡を待ちぶせすべき、まだ肌寒い早朝の外へと…勇んで飛び出していった。
実は…羅衣、既に渡の登校ルートは…把握。
女友達の多い彼女は…かなりの情報通。
今回に限ってはターゲットがターゲットなだけに、その仕入れのルートは半端ない数であった。
「渡 蒼生……。登校する時は男同士で群れを為す。果して入りこむ隙があるか……。」
ブロック塀に背をつけ、電柱の陰から顔だけを覗かせて……。
ちらり。と彼女の必需品である腕時計に…目をやる。
「さすがに早すぎたか。」
奴を逃すまい、と意気込んできたのは良いが、まだ通行人すら…ほぼいない。
隙間に身を滑らす羅衣を不審に思ってか……
腰を折り曲げた年配の女性は何度も何度も振り返り、
散歩していた犬はワンワンと彼女の周りでほえ立てた。
「…か、帰りてー…。」
いえいえ、帰らず学校に向かって下さいな。
すっかり待ちぼうけになってしまった彼女は暇をもて余し…
いよいよ、鞄の中を漁り始めた。
「……。どうせまだ来ないだろうし、ちょっとだけ……。」
取り出したのは。
これも彼女の必需品…、いや、むしろバイブルと言うべきか。
ミステリー小説……。
今ハマりにハマっているのは、1話完結型の読者が謎を解くミステリー。
早速、栞を挟めたページから…読みはじめた。
このミステリー小説では、章の文末には必ず…、「先生」と呼ばれる探偵が、犯人を探しあてる。
そして…読者へと質問を投げかける。
「なぜ先生は彼が犯人だと思ったのでしょう。」
「先生はなぜ彼女が嘘をついているとわかったのでしょう。」
羅衣はそこまで読んで、その章を一度だけ読み返し。
答えを…見つける。
その後、数ページ先に逆さまに載せられたアンサーに目を通す。
それを……ひたすら繰り返しては、まるであたかも自分が名探偵であるかのような錯覚を起こしては…自己陶酔する。


