「全身に神経を使うといいよ。目は前を見てても、実は周りも見る感じ。」
「………??」
「突破できないと思ったら僅かな隙間を見つける。味方にパスして…自分もまた走る。一瞬の…判断だよね。」
「………。なる程。」
「一ノ瀬すばしっこいから…向いてるな、PG。」
「ポイントガード?」
「特攻隊長!」
「アハハ、隊長かぁ…。」
「………。」
「……?え。なに?」
「いや、一ノ瀬ってこんなに笑う奴だったんだなーって。」
「………。おかしいですか?」
「ううん。おかしいことがあるとすれば…敬語つかってることくらい。」
「………!」
「タメだし、普通に話してよ。」
「………そう…だよね。」
「う~ん、いちいち可愛いよね、一ノ瀬って。」
「……!な、な、な……」
「ガードは堅い気がしてたけど、渡だけとはよく一緒にいるじゃん?やっぱアイツはすげーよ。バスケ部みんなでうらやましがってんだけど。」
「………。そんなご冗談を。」
「渡はそーゆーこと言わなかった?入学当初からだいぶ目立ってたよ、一ノ瀬。」
「…………。口が上手いなぁ。」
「信用ないな。」
「…………。」
「キョドってるのもウケる。」
「……からかわないで。」
「………。ねえ、一ノ瀬って渡とは本当に何でもないの?」
「さっきから言ってるけど…ただの友達。」
「でも一ノ瀬は好きだよね。」
「……………。」
「言わないの?渡に。」
「……あの人は、私をそういう目で見てない。」
「…………。」
「それに。今の関係が…ちょうどいいかなって。何かあって気まずくなるよりも…。」
もしかしたら……、
その関係も、本当はもう崩れ始めているのではないかと…思っていた。
羅衣が好意を寄せている地点で……
友情など、成立しない。
ましてや、昨日のキス……。
どんな意味があるのかはわからない。
だけど……、
何ともない顔して会うことは……できないのかもしれない。


