この日、羅衣は……
早朝の体育館へと訪れていた。
これから、練習していくにしても…
部活が終わってからでは、渡が目についてしまう。
かと言って、折角掴みかけた感覚を手放すのは…勿体ない。
そんな思いの元、ひたすら……シュートを放つ。
目を閉じて……イメージするのは。
昨日目に焼き付けた、渡の姿。
「左手は…添えるだけ。」
そう、呟いて……。
イメージと現実を重ね合わせて、ボールを…放つ。
やっぱり低めの軌道を描いて。
ゴールに触れることなく…
ぽてぽてと転がっていく。
「………あれ?…何してるの?」
体育館の入口で、羅衣のボールを拾い上げた男が…
静かに…口を開く。
「……。一ノ瀬じゃん。」
「………?!」
「ああ…、わかんない?俺、渡と同じクラスでバスケ部の……。」
「………。…あ。『タカハシ』くん!」
「なんだ、知ってるんだ。」
男との関わりなんて…
渡くらいしかない。
だから、彼に近い者であれば……最近、ようやくわかるようになっていた。
タカハシは…、やや小柄ではあるが、
愛嬌のある大きな瞳と、人懐こい笑顔が印象的な男である。
体育館に差し込む光が、彼の栗色の髪をきらきらと輝かせていた。
「昨日も渡と練習してたよな。今日は?一緒じゃねーの?」
タカハシは…悪びれなく聞いてくる。
「頼んだのは昨日だけなので。」
「……熱心だなぁ。」
「タカハシくんも朝練ですか?」
「うん。最後の大会も近いし…、俺タッパない分ポジション限定でさ。争いが厳しいのなんの。あいつにはわからん苦労かもねー。」
「………。小さい人でも…通用するんですか?」
「おっと…、キツイこと言うね。まあ…、センスとか才能とか兼ね揃えてればだね。俺あたり山脈にぶち当たっていくしかないもん。」
「……山脈……。」
「渡も山脈じゃん。だからそーゆー奴の間をぬっていくのが…俺のポジション。」
「……へぇー…。」
「一ノ瀬もちっこいよぬ。」


